官事務所の窓

眠れ眠れ

暮れの朝の山手線はコロナの影響もあってガラガラだ。

こんな日に朝から電車に乗っているのはだいたい仕事だろう。

何か塊があるな、と目に入ったのは仰向けに熟睡する化粧の濃い美女。

脚がどこまでも露わ…。

「あ、こら正面のオジサンどこ見てる?」

次の駅でオジサンが下りたのを機に、

ブランド物の財布の入った紙袋を床から拾い上げ

「朝ですよ」と声をかけ揺するも、反応なし。

「困ったな」と独り言ちて正面に座ると、若い女性が一緒にどうにかしようと声をかけて来た。

同時にその向こうにいたオバサマが「あんた恥ずかしいよ」と起こしにかかる。

結局その二人が脚を抱えて無理やり座らせ、熟睡美女も朦朧とスマホを手にし、

どこぞに電話をかけながら、また横に倒れ込む。

再び落とした紙袋を拾って渡すと「あイがとうございます。」と微笑む美女。

紙袋は枕になったからもう心配ない。

暮れの山手線、どんなに寝ても遠くへは行かない。

眠れ眠れ暖かい車内で、ゴトゴト揺られて、嫌なことは忘れて…。