内なる友
旧知の犬に噛まれた手は4か所ほど赤や紫に歯の痕が付き、薄く皮が剥けている。
すぐに水で洗い流したらよかったのだが、それをしたのは30分後。
気付くと傷の手前の血管が直径7ミリぐらいに膨れ、その周りも盛り上がっている。
今まさに目の前で好中球やマクロファージが集まって犬の唾液か何かに含まれる異物を検証し、
或いは食べ、或いはT細胞にお知らせし、静脈はその食べかすを運び去る為にこんなに大きく膨らんでいる。
T細胞は異物に対して抗体を作るがいいか、直接攻撃で事足りるかを瞬時に判断し
必要があればB細胞に抗体作りを指示している。
触ると熱い。
白血球が異物を相手に戦っている証拠だ。
熱を持っている時は直接もんだりしない方がよいのだが、と思う間もなくつい押す。
自分の手だからいいことにする。
オオー、腫れていたのが凹む。
凹みは30分後復活して
前よりも大きい赤紫の膨らみになったけれど
次の日、ほんの少しの赤みを残して元に戻った。
感動のあまり消毒も、何か塗ることも忘れていた。
内なる友がここに居る。
私の中に。
誰もがの、体の中に。